会社設立・法人登記
1. 株式会社の登記
1. 平成27年会社法改正・商業登記規則改正による変更

法改正で大きく変わっています。

平成17年会社法改正は、それまでの商法を大きく改正し、わが国の会社形態の骨格を変えるものでした。その後も、なんどか小規模の改正はありましたが、平成27年改正は、根本的改正と呼ぶのにふさわしいもので、いくつかの点で看過できない大きな変化がありました。
また、併せて商業登記規則も改正されました。そのなかには、監査等委員会設置会社など上場企業などの大会社以外は影響がなさそうな変更もありますが、株式会社全般に(持分会社にも)直接影響する変更があります。 ここでは、その中から最も重要なものを2つ取り上げ、説明します。

(1)役員の変更登記

  • 【1】設立登記または取締役等の就任(再任を除く)登記申請の際の就任承諾書に住所を記載し、またその住所につき、本人確認証明書の添付が必要になった。
    架空の役員や就任意思のない役員の就任を防止するために、取締役、監査役、執行役の就任承諾書に住所を記載しなければならなくなり、またその住所につき、住民票の写しまたは運転免許証などの本人確認証明書の添付が義務づけられました。
  • 【2】代表取締役の辞任の際、辞任届に実印の押印と印鑑証明書の添付が必要になった。
    これも、本人の意思の確認のためです。ただし、登記所届の代表印が押印されていれば、印鑑証明書は不要です(登記所で確認できるため) 。
  • 【3】婚姻前の氏を役員欄に記録することができるようになった。
    これは、設立や役員変更登記などと同時に、その旨の申し出をすることが必要です。

(2)監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めの登記

平成17年改正の会社法では、監査役の監査の範囲が会計限定である旨の定款の定めがあっても、それは登記事項ではなく、外部から監査役の監査の範囲を知るためには、定款を見るしかありませんでした。 それが平成27年改正で、登記事項に変更されたわけですが、とくに、平成17年改正時に資本金1億円以下であった会社(旧小会社)は、定款に書いていなくても、監査役は会計限定とみなされていました。そういう会社は、次回の監査役の変更の際に、会計限定の登記が義務づけられることになりました。

2. その他の株式会社の変更登記

株式会社は多くの登記義務がある

日本には、数多くの会社がありますが、その中で最も多く、しかもポピュラーなのが株式会社です。
平成17年の会社法改正までは、他に有限会社という形態がありましたが、現在は、それまでの有限会社は存続できるものの、新たな有限会社を設立することはできなくなりました(ほかに持分会社あり)。

1.で説明した平成27年改正以外にも、株式会社には、登記義務をはじめとする多くの制度上の義務があります。しかし、それらの義務は、特に中小企業では、あまり守られていないのが現状のようです。
平成17年会社法改正以前は、株式会社の取締役の任期は約2年でした。そして、改正後、特に大部分の数を占める譲渡制限会社において、取締役の任期は最大10年まで延びました。これは、登記事項ではないため、定款を見ないとわかりません。 そのことから、任期ごとに重任などの変更登記をしなくても(登記懈怠といいます)、大目に見られることが多かったようです。
しかし、平成17年改定の施行日、平成18年5月から10年たった平成28年5月以降は、法務局の扱いも厳しくなっています。登記懈怠に対する過料も、かつてより懈怠期間が短いものに対しても課せられるように変わっています。 もともと、会社法には登記懈怠に対する罰則が設けてあり(会社法第976条第1項)、登記懈怠に対して、100万円以下の過料(刑法上の罰ではないが、過ちに対して支払わせられる金銭)となっています。 登記など、わざわざ司法書士に依頼しなくても、社内の人間で十分とお考えの会社も多いようですが、本業とは一応別の業務のため、つい忘れがちになるものです。 専門家に、任期ごとに管理することまで依頼しておけば、忘れる危険はなくなります。
また、役員変更以外にも、増資、原資、本店移転など、変更登記は数多くあるし、登記以外の注意事項も少なくありません。定款の見直しを含め、登記以外の義務についても再検討する時期が来ているのではないでしょうか。

3. 定款の保存、株主総会議事録の作成・保存

定款や株主総会議事録はきちんと保管してありますか?

登記とは関係なくても、定款や、株主総会議事録は株主・債権者の要請があれば、閲覧のため提示する義務があります。定款は、設立の際に必ず必要なので、作成していないことはないのですが、時間がたつにつれ、どこに保存したか忘れてしまう場合もあるようです。
また、株主総会も毎年開催しなければいけないのに、特に中小企業では、忘れる(省略する?) 場合も多いようです。
きちんと開催したかどうかは、株主総会議事録が作成されているかどうかで明らかになります。 普段は、定款も株主総会議事録も、存在を忘れていてもとくに支障はありませんが、一旦ことがあると、あわてて探す羽目になります。
例えば、役員の任期を伸張している場合、補欠の選任規定を定めている場合、取締役の定員を定めている場合など、登記事項ではない定めがあるのに、それが曖昧になったとき、定款が見つからないと大変困ったことになります。
また、定款変更をいつ行ったかは、株主総会議事録を見るしか確かめる方法がない場合もあります。
このように、定款は会社の重要事項を定めているのですが、登記されるのは、その一部であり、登記されていなければ、一旦忘れたり、曖昧になったりしたときに確かめる手段がないということになります。
専門家が作成に関与していれば、現物が見当たらなくても、控えが残っているので、急場しのぎの役に立つことになります。

商業登記の対抗力

不動産登記が対抗要件であることは、不動産登記のコラムに書きました。商業登記は、ちょっと異なります。
登記が対抗力となる例もありますが(商号登記など)、その効力の中心は公示力であり(登記しなくても対抗力のある事項を、登記することによって善意の第三者に効力を及ぼすこと)、またよく知られているのが、会社の設立は登記することによって有効になります(形成力)。
ですから、設立の時、登記を忘れる人はいないのですが、そのあとは、ついつい忘れてしまう場合が増えてくることになります。

4. 公告方法

決算公告は毎年の義務です

会社法では、公告方法は必ず定款で定める義務があり、同時に登記事項でもあります。その方法は、官報掲載、日刊新聞掲載、電子公告と3通りありますが、現在は官報掲載が多いようです。
ところが、株式会社では、年1回、定時株主総会の後、決算公告が義務づけられているのに、多くの会社で守られていないのが現状です。それは主に単に忘れていること、もしくは、安くない費用がかかること(通常6万円前後から)が原因です。では、他の方法では、どうでしょうか。
まず日刊新聞掲載ですが、これは官報公告よりずっと費用がかかります。なので、採用しているのは、上場企業などの大企業が中心となっています。
もう一つ、電子公告があります。これはHP(ホームページ)に公告する方法で、すでに自社HPをお持ちの企業では、採用している例も多いのですが、費用などで、考慮すべき点があります。 それはたしかに電子公告をしたかどうかを確認するために、調査機関の調査を受ける必要があり、決算公告は5年間の公示義務があるため、その費用は官報公告を大きく上回ることになります。
となると、もう方法はないようですが、実は最も安く、しかも手続きも簡単な方法があります。
それは、官報公告または日刊新聞による公告を採用している会社が、決算公告だけを電子的に開示する方法をとることです。 これだと、自社のHPに決算書類の数字を掲載すればよいだけでなく、なんと電子公告の場合の調査機関による調査が不要なのです。しかも、定款変更は、代表取締役の決定で行えばよく、株主総会を開く必要もないのです。 (「貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項の設定」を登記するだけでよい。)

2. 株式会社以外の登記

株式会社以外の法人としては、持分会社、一般社団法人、医療法人などがあります。

1. 持分会社

旧商法時代から存在した合名会社、合資会社に、平成17年改正の会社法によって、新たに合同会社が加わりました。
株式会社との大きな違いは、株式会社では、株主と経営者(取締役)が分離しているのに対して、持分会社は出資者が社員として直接経営に携わるということです。法人としての資格は持分会社も株式会社も変わりません。
また、会社が作った負債が社員に及ぶかどうかで、無限責任社員有限責任社員の区別があり、無限責任社員ばかりの合名会社や、有限責任社員と無限責任社員から構成される合資会社は別として、合同会社の場合、有限責任社員のみで構成されるので、社員の責任は株式会社の株主とほとんど変わらないということになります。
ただ、知名度の点で持分会社は、株式会社に及ばず、また外部に出資者を募ることもできないという点で、制限はありますが、設立の際の免許税も6万円と安く(株式会社は最低15万円)、定款の公証人による認証もいらないという点で、大きなメリットがあります。また、設立後も社員の任期もなく、決算公告も不要です。
会社を設立する際は、持分会社も検討の対象にすることをお勧めします。
設立の際は、どういう形の会社がふさわしいかも含めて、ご相談ください。

2. 一般社団法人

平成20年施行の法律によって定められた法人の形態です。
株式会社や持分会社とは異なり営利を目的とすること(出資者が剰余金や分配金を受けること)はできません。
それまでの民法法人が主務官庁の許可によって設立していたのに比べて、一定の手続きと登記によって設立することが可能になった点で大きなメリットが生まれました。
各種学会、ボランティア活動などの任意団体、地域振興などを目指す非営利事業などの法人化に適しています。
設立だけでなく、各種の変更登記もあり、株式会社に似た組織形態となっています。

3. その他の法人

一般財団法人、医療法人、学校法人なども設立には登記が必要であり、また各種変更登記も義務づけられています。